第30回記念定期演奏会

廣原 誠(S58,2T)

 その日は,朝からの大雪にもかかわらず,札幌市民会館は,満員の熱気に包まれていた。委嘱作品『流氷のうた』は,そんな雰囲気のなか最終ステージで初演された。終曲の「光の讃歌」の演奏が終了したとき,いただいた拍手の大きさと世界で初めての演奏を充実させることができたという満足感で,団員全員が大きな感動を得たことであろう。

 その2年前の夏合宿中,記念定演企画委員会は発足した。企画が委嘱作品と決定してからは,引き続き委嘱プロジェクトチームとして,テキストや作曲家の選考から,交渉,事務的な業務にいたるまで,指揮予定の菊地さん,外政予定の庄司君を中心に地道な作業が始まった。作詞の阿部保先生に許可をいただき,札幌大谷短期大学の宍戸先生を通じて湯山昭先生に快諾をいただいたときの喜びは,ひとしおであった。湯山先生を札幌にお迎えしたとき,石狩浜を歩きながら曲のヒントをつかまれたとのことに感動した。着々とすすむ準備の中で,一曲づつぽつりぽつりと手書きの楽譜が団員の手元に届けられていった。ところが,湯山先生の叙情的かつ計算された音の配置は,詩の深さと相まって,表現力乏しい団員にとって(特にセカンドテノール)重荷であった。このとき,言葉一つに神経を配る大切さを勉強させていただいた気がする。そんな苦労があっただけに,演奏後の拍手は,特にうれしかったのである。

 個人的には,湯山先生の前でクレッシェンドについて質問したとき「さすがパートリーダーだ」とおほめの言葉をいただいたことや,定演後の打ち上げで朝まで飲み,その日の朝六時のバスで出発する湯山先生をみんなして日航札幌支店前でお見送りしたことがたいへん印象深く残っている。

 30回記念定演委嘱作品について思い出すままを走り書きしました。記憶違い,ひらにご容赦を!

(第4回OB演奏会プログラムより転載)

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